山中慎介は岩佐が継ぎます


日刊スポーツに良い記事があった
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敗れた山中慎介の美しき遺産、岩佐亮佑の懇願



日本バンタム級タイトルマッチ 10回、岩佐亮祐(右)に左ストレートをヒットさせる山中慎介(2011年3月5日撮影)
 3月1日に両国国技館で行われたボクシングのダブル世界戦で、目頭が熱くなる場面があった。

【写真】岩佐亮佑「オレもショック」ネリ計量オーバーに動揺

 WBC世界バンタム級タイトルマッチ、前日計量の失格で王座を剥脱された前王者ルイス・ネリ(23=メキシコ)と、元王者山中慎介(35=帝拳)のメインカードが始まる直前、1人の日本人世界王者が懇願した。

 「7年前、日本タイトルで戦って、僕は負けましたけど、会場の山中さん側からの岩佐コール、僕は忘れてません。それがあったからこそ、救われたところもあります。で、このあと、リマッチです。僕の応援団の方々、恩返し、お返しの番です。僕以上の応援を山中さんに送ってください!」

 IBF世界スーパーバンタム級王者岩佐亮佑(28=セレス)は自身の初防衛戦を終えたリング上で声を張った。昨年8月に日本記録に並ぶ世界戦連続13回防衛を阻まれたネリとリマッチ(再戦)に臨む山中へ。その言葉に、こちらの感情も一気に高ぶった。

 岩佐と山中。出会いは7年前にさかのぼる。11年3月5日、同じ初春の季節に、拳を交えた。13勝9KO2分け、7連続KO中の27歳だった山中が迎えた日本バンタム級王者としての初防衛戦。21歳だった岩佐は、習志野高で高校3冠、8勝(6KO)無敗の大物ホープとして挑戦の舞台に立った。後楽園ホールの前売り券が2時間で完売するほど注目された一戦は、むしろ岩佐の下馬評が高く、そして結果は山中が10回TKOでベルトを守った。

 フットワークを使う戦前予想を裏切った岩佐の攻勢で、試合は初回から熱を帯びた。互いの左ストレートの交錯が緊張感を生み、顔面をとらえる度に歓声は増した。判定に持ち込まれるかと思われた最終10回、いまや「神の左」として有名になった山中の左ストレートが岩佐を打ち抜いてラッシュを仕掛けると、岩佐陣営からタオルが投げられ、11年プロボクシング年間最高試合賞にノミネートされた、のちの2人の世界王者の「共演」は終わった。

 それから7年。2人は再び同じリングに立った。しかし、それは敵としてではなかった。岩佐はIBF世界スーパーバンタム級王者として初防衛戦。同級13位エルネスト・サウロン(フィリピン)と対戦し、3-0の判定勝ちを収めた。一方の山中は挑戦者。因縁のネリへの雪辱戦を迎えていた。

 7年前の一戦の勝敗から、2人の歩んだ道のりには大きな隔たりができていた。勝った山中は12度の世界戦防衛を重ねる一方で、岩佐は世界挑戦で敗れるなど苦しむ。ようやく昨年9月に王座を獲得していた。ただ、岩佐は苦しい最中にも忘れていなかった。

 「会場の山中さん側からの岩佐コール、僕は忘れてません。それがあったからこそ、救われたところもあります」

 敵の応援団からの声援、それが1つの心のよりどころだったのだ。そして、困難とされる初防衛戦を終えた直後、ずっと抱えてきた感謝の思いを、恩返しというお願いで伝えることができた。

 思い出したのは平昌五輪スピードスケート女子500メートルで金メダルを獲得した小平奈緒のことだ。3連覇を狙って銀メダルに終わった最大のライバル、韓国の李相花に寄り添い、泣きじゃくる姿に、「今でも私はあなたを尊敬しているよ」と声をかけたという場面。何度見ても何かを極めようとした者同士しか共鳴できないような、美しい人間関係に胸を打たれる。かつて拳を交えた山中に送る岩佐の言葉にも、同様の美しさを感じた。

 山中にとっては残酷な結末が待っていた。体重、体調面の差は大きく、ネリに2回TKO負け。引退試合となった。ただ、岩佐のファンからも送られたに違いない山中コールは12年間のプロボクサー人生の美しき遺産だ。

 岩佐は一夜明けた2日、決意を述べた。

 「戦う以前に立ち居振る舞い、人間性を見習いたい。いろいろ巡り合わせもあるが、つなげるようなああいうボクサー、男になりたい。山中さんの分も頑張りたい」。

 2人を結ぶ糸はかつて絡み、離れ、再び混じり合い、これからは1つの太い糸を形作っていく。





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